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第7話 「落ちる記憶の底」

Penulis: ちばぢぃ
last update Tanggal publikasi: 2026-03-14 20:30:39

落ちる感覚が、永遠に続くように思えた。

体が回転し、風が耳元を切り裂く。だが、地面にぶつかる衝撃は来ない。代わりに、闇が柔らかく体を包み、ゆっくりと沈み込んでいく。まるで水の底に落ちるように。

シュウは目を閉じた。開けても何も見えないからだ。

(これは……記憶?)

突然、頭の中に映像が流れ始めた。古いフィルムのように、ちらちらと途切れながら。

七年前の夜。雨が激しく窓を叩いている。父の部屋のドアが、少し開いていた。幼いシュウは、布団から抜け出して、廊下を忍び足で進む。

父の声が聞こえる。電話だ。

父「高槻、もうやめろ。プロジェクトは危険すぎる。子供たちを巻き込むな」

受話器の向こうから、笑い声。低く、乾いた笑い。

高槻の声「君が止めたところで、遅いよ。もう始まってるんだ。星見の地下で、すべてが動き出した」

父の背中が震えていた。電話を切ると、父は机の引き出しを開け、手帳を取り出した。ページをめくり、鉛筆で何かを書き込む。

幼いシュウが、ドアの隙間から覗く。

父が振り向いた。目が合った。

父「シュウ……起きてたのか」

父は優しく微笑んだ。だが、その笑顔の奥に、深い悲しみがあった。

父「大丈夫だよ。もうすぐ、全部終わるから」

父はシュウを抱き上げ、ベッドに戻した。額にキスをする。

父「いい夢を見なさい。怖い夢は、見ないように」

その夜、父は家を出た。二度と帰らなかった。

記憶がそこで途切れる。

シュウは暗闇の中で、体を丸めた。涙が頰を伝う。冷たい。

シュウ「……お父さん」

声が、闇に吸い込まれる。

すると、別の声が響いた。幼い、自分の声。

幼いシュウの声「お父さん、どこ?」

闇の中に、光の粒子が浮かび上がる。粒子が集まり、父の姿になる。白衣を着た、若い頃の父。

父の幻影「シュウ……よくここまで来た」

シュウは手を伸ばした。だが、指先が幻影をすり抜ける。

シュウ「どうして……死んだの?」

父の幻影は、静かに首を振った。

父の幻影「死んだんじゃない。封じられたんだ。高槻に」

シュウ「封じられた……?」

父の幻影「プロジェクト『星見』。旧軍の施設を再利用して、記憶を操作する装置を作ろうとした。高槻は、それに取り憑かれていた。俺は止めたかった。でも……」

幻影の体が、徐々に薄くなる。

父の幻影「装置は完成した。俺はその最初の犠牲者になった。体は消え、記憶だけが、ここに残された」

シュウの胸が締め付けられる。

シュウ「じゃあ……お父さんは、まだ生きてるの?」

父の幻影「生きてる、と言えるかはわからない。だが、俺の記憶はここにある。高槻は、それを餌に君を誘ってる」

幻影が、シュウの額に触れた。冷たくない。温かい。

父の幻影「逃げろ、シュウ。ここにいると、君の記憶も奪われる」

シュウ「でも……お父さんを、助けたい」

父の幻影は、悲しげに微笑んだ。

父の幻影「助けられるなら、俺はもうここにいないよ。だが……君なら、止めることができる。高槻を」

幻影が、完全に消えかけた。

父の幻影「手帳の最後のページ……見てごらん」

シュウはポケットを探った。手帳は、まだ胸に抱えていた。最後のページを開く。

そこに、新しく現れた文字。さっきまでなかったはずの。

「高槻の弱点は、桜の根元。装置のコアが、そこにある」

文字が、光を放ち始めた。

同時に、闇が揺れた。地面が、ゆっくりと上昇し始める。

シュウの体が、浮かび上がる。

父の幻影の最後の声。

父の幻影「タクミを……信じろ」

光が爆発した。

シュウは目を覚ました。

桜の木の下。穴は塞がれ、土が元に戻っている。月明かりが、木の枝を銀色に染めていた。

タクミが、シュウの体を抱きかかえていた。顔が土で汚れている。泣いている。

タクミ「シュウ……! よかった……生きてた……」

シュウはゆっくりと体を起こした。頭が痛い。だが、記憶は鮮明だ。

シュウ「……タクミ。ありがとう」

タクミは鼻をすすった。

タクミ「バカ……急に穴に落ちて、俺一人でどうすりゃいいんだよ」

シュウは手帳を握りしめた。最後のページの文字は、まだ残っている。

シュウ「管理人……高槻零の弱点が、わかった」

タクミが顔を上げた。

タクミ「本当か?」

シュウは頷いた。声に、力が戻っていた。

シュウ「桜の根元に、装置のコアがある。壊せば……すべて終わるかもしれない」

タクミは立ち上がった。拳を握る。

タクミ「じゃあ、やるしかねえな。二人で」

シュウも立ち上がった。月が、二人の影を長く伸ばす。

シュウ「そうだな。……星見キッズは、まだ終わってない」

遠くの校舎から、泣き声が聞こえた。今度は、怒りの混じった、歪んだ声。

高槻の声「よくやったね、シュウくん。でも、まだ終わっていないよ」

声は、風に乗り、夜空に溶けていった。

シュウは桜の木を見上げた。枝が、わずかに揺れている。

シュウ(次は……俺たちの番だ)

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